Palantir AIP Agent Studioとは?機能と構築手順

- 1. 目的を定義対象となる業務、利用者、エージェントに任せる判断の範囲を決める
- 2. Ontologyを準備参照するオブジェクトと実行させるアクションを整備し、権限を設計する
- 3. エージェントを構成モデル、指示文、検索コンテキスト、ツールをAgent Studioで設定する
- 4. 検証想定される質問と操作で挙動を確かめ、指示文とツールを調整する
- 5. 公開・運用WorkshopやThreadsに組み込み、利用ログをもとに改善を続ける
- ユーザーと対話するエージェントを作る
- 会話の流れに応じてツールを選んで実行する
- WorkshopやThreadsから利用する
- LLMを使った処理を関数として作る
- 入力と出力が決まった定型処理に向く
- Functionとしてアクションやパイプラインから呼び出す
Palantir AIP Agent Studioとは何か?
Palantir AIP Agent Studioは、Ontologyのデータと業務ロジックに接続したLLMエージェントを、ノーコード中心で作成・公開するAIPの開発環境です。
Palantir AIP(Artificial Intelligence Platform)は、Foundryの上で生成AIを業務に組み込むための製品群です。AIP Agent Studioはその中で「対話型のエージェントを作る場所」として使われます。Palantir公式ドキュメントでは、AIP Agent Studioで作ったエージェントを「AIP Agent」と呼んでいます。ユーザーと会話しながら、Ontologyのオブジェクトを検索したり、Actionを実行したり、ドキュメントを参照して回答したりする用途を想定しています。
AIP Agent Studioが生まれた背景は?
LLMを業務で使うには、チャットだけでなく自社データと権限管理に沿った「操作」まで扱える仕組みが必要だったからです。
汎用のチャットAIは、社内の在庫・設備・案件といった業務データを知りません。仮に知っていても、誰がどのデータを見られるのかという権限の管理ができません。Palantirはこの課題に対して、データ・ロジック・アクションを1つのモデルにまとめた「Ontology」をLLMの文脈(コンテキスト)や道具(ツール)として渡すアプローチをとっています。AIP Agent Studioは、その考え方を「エージェントを組み立てる画面」として形にしたものだと整理できます。
FDE(Forward Deployed Engineer)の現場では、「生成AIで何かしたい」という顧客の要望を、具体的な業務フローとデータ接続の設計に落とし込む場面がよくあります。AIP Agent Studioはその落とし込みを短期間で試作するための道具として位置づけると、全体像がつかみやすくなります。
どんな業務・ユーザーを想定しているのか?
現場担当者が自然言語で業務データを調べ、判断し、必要ならActionで記録まで行う「業務特化型アシスタント」が主な想定です。
典型的な用途は次のとおりです。
- 調査・照会:「今週遅延リスクが高い出荷はどれか」のような問いに、Ontologyのオブジェクトを検索して答える
- 文書参照:マニュアルや規程などのドキュメントを検索し、根拠を示しながら答える
- 起票・更新:会話の結果をもとに、Actionで保守チケットやステータス更新を作る(実行前にユーザーの確認を挟む設計が一般的)
- アプリ組み込み:Workshopアプリの画面にエージェントを埋め込み、画面で選んでいる対象を踏まえて回答させる
想定ユーザーは、エージェントを「作る側」と「使う側」に分かれます。作る側はFDEや社内のデータ/アプリ開発者、使う側は業務担当者です。
AIP Agent Studioの主要機能と構成要素は?
エージェントは「モデル」「指示(プロンプト)」「検索コンテキスト」「ツール」「アプリケーション状態」の5要素で構成されます。
AIP Agent Studioの設定画面は、おおむね以下の要素で成り立っています。名称はPalantirのUI更新によって変わることがあるため、最新の表記は公式ドキュメントで確認してください。
| 構成要素 | 役割 | 設計時の主な論点 |
|---|---|---|
| モデル(LLM) | 推論を担うLLMを選ぶ | 精度・速度・利用可能なモデルの組織ポリシー |
| システムプロンプト(指示) | 役割・口調・禁止事項・回答形式を定める | 業務ルールの明文化、根拠の示し方 |
| 検索コンテキスト(Retrieval context) | Ontologyのオブジェクトやドキュメントから関連情報を取得する | どのデータを、どの粒度で見せるか |
| ツール(Tools) | オブジェクト検索、Action実行、Function呼び出しなど | 書き込み系ツールの承認フロー |
| アプリケーション状態(変数) | Workshopなど外部アプリと値を受け渡す | 画面の選択状態とエージェントの連動 |
検索コンテキストとツールの違いは?
検索コンテキストは「回答前に自動で渡す情報」、ツールは「LLMが必要に応じて呼び出す操作」と区別すると設計しやすくなります。
検索コンテキストは、ユーザーの質問に関連するオブジェクトや文書の断片を、プロンプトに自動的に差し込む仕組みです。セマンティック検索を使う場合は、対象データに埋め込み(embedding)を用意しておく必要があります。
一方のツールは、LLMが会話の流れから「いま必要」と判断したときに呼び出す機能です。オブジェクトの絞り込み検索、集計、Functionの実行、Actionによるデータ更新などがあります。
実務で迷いやすいのは、「全部をツールにするか、コンテキストに寄せるか」という判断です。筆者の見立てでは、毎回ほぼ必ず参照する小さな情報はコンテキストに、条件によって使い分ける照会や更新はツールに分けると、挙動が安定しやすくなります。ただし、最適な配分はデータ量とモデルによって変わるため、評価しながら調整するのが現実的です。
権限・ガバナンスはどう担保されるのか?
エージェントは実行ユーザーの権限の範囲でOntologyにアクセスするため、Foundryの既存のアクセス制御がそのまま効きます。
Palantirのプラットフォームでは、マーキングやプロジェクト権限などのアクセス制御が、データだけでなくAIPの機能にも適用される設計になっています。エージェントがOntologyを検索しても、ユーザーが閲覧権限を持たないオブジェクトは返りません。これは、PoC段階から本番運用を見据えるうえで大きな利点です。
ただし、Actionのような書き込み系ツールは慎重に扱う必要があります。「実行前に必ずユーザー確認を挟む」「対象を限定したActionだけを公開する」といったガードレールを、設計段階で決めておくことをおすすめします。
AIP Agent Studioでエージェントを作る手順は?
「目的定義→モデルと指示の設定→コンテキスト接続→ツール追加→テスト→公開」の6段階で進めるのが基本です。
以下は、Palantir公式ドキュメントの構成と一般的な開発フローをもとに整理した手順です。具体的なメニュー名は環境やバージョンによって異なる場合があります。
| # | ステップ | 主な作業 | 完了の目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的とユースケースの定義 | 対象ユーザー、想定質問、やってはいけないことを列挙 | 想定質問リスト(評価セットの素)ができている |
| 2 | エージェント作成・モデル選択 | AIP Agent Studioで新規作成し、LLMを選ぶ | 空のエージェントが対話できる |
| 3 | システムプロンプト設計 | 役割、回答形式、根拠の提示方法、禁止事項を記述 | 口調と回答形式が意図どおりになる |
| 4 | 検索コンテキスト接続 | Ontologyのオブジェクトタイプや文書を接続 | 想定質問に根拠つきで答えられる |
| 5 | ツール追加 | 検索・集計・Function・Actionを登録 | 照会と更新の両方がテストで成功する |
| 6 | テスト・公開 | 評価セットで検証し、Workshopなどに組み込んで公開 | 利用者が業務画面から使える |
最初の試作で押さえるべきポイントは?
最初は読み取り専用のエージェントにしぼり、想定質問10〜20問程度で挙動を確認してから書き込み系ツールを足すのが安全です。
「10〜20問」は筆者が目安として使っている規模で、公式の基準ではありません。ここで大事なのは、最初からActionまで盛り込まないことです。照会の精度が不安定なまま更新系ツールを追加すると、誤ったオブジェクトを更新するリスクが高まります。
試作段階では、次の観点を記録しておくと、後の改善がスムーズになります。
- 回答の正確さ(Ontologyの値と一致しているか)
- 根拠の提示(どのオブジェクト・文書を参照したかが分かるか)
- ツール選択の妥当性(呼ぶべきツールを呼んでいるか、余計な呼び出しがないか)
- 拒否すべき依頼を拒否できているか
公開・組み込みはどう行うのか?
公開したエージェントは、WorkshopのAIP Agentウィジェットを通じて業務アプリに埋め込む使い方が一般的です。
Workshopに組み込めば、画面で選んでいるオブジェクトをアプリケーション変数としてエージェントに渡せます。たとえば「この設備の直近の異常を要約して」と頼むだけで、選択中の設備を対象に回答させる、といった使い方です。
Palantirはこのほか、エージェントをFunctionとして公開し、他のロジックやAPIから呼び出す方法も提供しています。利用できる公開経路は時期によって拡充されているため、導入時点のリリースノートを確認してください。
AIP LogicやThreadsとの違いは?
Threadsは汎用の対話・分析、AIP Logicは定型処理の関数化、AIP Agent Studioは業務特化の対話エージェント構築という役割分担です。
AIPには生成AIを扱う機能が複数あり、初学者が最も混同しやすいポイントです。違いを表にまとめます。
| 観点 | AIP Threads | AIP Logic | AIP Agent Studio |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 文書やデータについて、その場で対話・分析する | LLMを使った処理をノーコードでFunction化する | 業務特化の対話型エージェントを構築・公開する |
| 対話性 | 高い(チャット中心) | 低い(入力→出力の処理) | 高い(チャット+ツール実行) |
| 再利用性 | 個人・アドホック用途が中心 | Functionとして各所から呼び出せる | 設定済みエージェントを複数の利用者に配布できる |
| 典型的な出力 | 回答・要約 | 構造化された値やOntology編集 | 回答+Actionによる更新 |
| 向いている場面 | 探索的な調査 | バッチ処理、Automateとの自動化 | 現場担当者向けの業務アシスタント |
AIP Logicとの使い分けは?
入力と出力が決まった定型処理はAIP Logic、ユーザーとのやり取りで要件が変わる処理はAIP Agent Studioが向いています。
たとえば「問い合わせメールを分類してカテゴリを付与する」処理は、入力と出力が明確なので、AIP Logicで関数化し、Automateで定期実行する構成が自然です。一方、「担当者が状況を聞きながら対応策を決める」といった業務は、対話の流れで必要な情報が変わるため、エージェントのほうが適しています。
両者は組み合わせることもできます。AIP Logicで作った関数を、AIP Agent Studioのツールとして呼び出せば、「判定ロジックはLogicで厳密に、対話はAgentで柔軟に」という分担ができます。筆者はこの組み合わせを、品質を担保しやすい構成としてよく推しています。
Threadsから移行すべきタイミングは?
同じ種類の質問が繰り返され、複数の担当者が同じ手順で使い始めたら、Agent Studioでのエージェント化を検討する時期です。
Threadsは手軽に使える反面、指示やデータ接続の設定が利用者ごとにばらつきがちです。業務として定着させるなら、プロンプトとツールを固定したエージェントにして、全員が同じ品質で使えるようにするほうが運用しやすくなります。「Threadsで探索→Agent Studioで標準化→Logic/Automateで自動化」という段階的な成熟モデルで考えると、顧客との合意形成もしやすくなります。
FDEはAIP Agent Studioを実務でどう使うか?
FDEはAIP Agent Studioを、顧客の業務課題を数日〜数週間で動く試作に変え、本番化の判断材料をそろえるための道具として使います。
Palantir型のFDEの価値は、顧客の現場に入り込み、課題の発見から実装・定着までを一気通貫で担う点にあります。AIP Agent Studioは、その中でも「動くものを早く見せる」局面で特に威力を発揮します。
導入現場ではどの順で進めるのか?
業務観察→Ontology整備→エージェント試作→現場評価→本番化の順で、エージェントより先にOntologyを固めるのが定石です。
エージェントの品質は、接続するOntologyの品質に強く依存します。オブジェクトタイプのプロパティ名があいまいだったり、リンクが整っていなかったりすると、LLMは正しいデータにたどり着けません。現場感覚では、プロンプトを調整し続けるよりも、Ontologyのプロパティ説明やオブジェクト設計を見直したほうが改善が早いケースが少なくないと感じます。
進め方の例は次のとおりです。
- 現場担当者の業務を観察し、「誰が・何を判断するために・どのデータを見るか」を洗い出す
- 必要なオブジェクトタイプとActionをOntologyに整備する
- AIP Agent Studioで読み取り専用のエージェントを試作する
- 現場担当者に実際に使ってもらい、質問ログから失敗パターンを集める
- 書き込み系ツール、Workshop組み込み、権限設計を加えて本番化する
FDEに求められるスキルと注意点は?
プロンプト技術よりも、業務理解・データモデリング・評価設計の3点が成果を左右し、過度な自律化は避けるべきです。
AIP Agent Studioはノーコードで触れるため、「プロンプトを書ければ作れる」と思われがちです。しかし実務で差がつくのは、次のようなスキルです。
| スキル領域 | 具体的な中身 | AIP Agent Studioでの活かし方 |
|---|---|---|
| 業務理解 | 現場の判断プロセスと例外処理の把握 | システムプロンプトと禁止事項に反映する |
| データモデリング | Ontologyのオブジェクト・リンク・Action設計 | 検索コンテキストとツールの精度を上げる |
| 評価設計 | 想定質問セット、合否基準、ログ分析 | 改善サイクルを定量的に回す |
| ガバナンス | 権限、承認フロー、監査ログの設計 | 書き込み系ツールの安全性を担保する |
| ステークホルダー調整 | 現場・IT部門・経営層の期待値調整 | 試作から本番化への合意を得る |
注意点として、エージェントに任せる範囲は段階的に広げることをおすすめします。最初から「自律的に判断して更新まで行う」設計にすると、誤りが起きたときの説明責任があいまいになります。少なくとも初期段階では、「エージェントは提案し、人間が承認してActionを実行する」という形にとどめるのが無難です。
FDEを目指すエンジニアにとって、AIP Agent Studioは、Palantirの思想である「Ontology中心のAI活用」を手を動かして体感できる入り口です。一方で、ツール自体の操作は数日で覚えられても、業務に定着するエージェントを作れるかどうかは、現場の課題をどれだけ深く理解しているかにかかっています。ツールの習熟と並行して、データモデリングと業務分析の経験を積むことが、FDEとしての市場価値を高める近道になるはずです。
出典・参考:Palantir公式ドキュメント「AIP Agent Studio」「AIP Logic」「AIP Threads」「Workshop」各ページ(palantir.com/docs)。機能名・UI表記は2026年10月時点の情報をもとに整理しており、Palantirの製品アップデートにより変わる可能性があります。本文中の実務上の見解は、筆者の現場経験に基づくものです。





